プロローグ
旅までの短い道のり

 旅行の企画の進み方は様々だが、当初とは行き先も人数も違うという旅行は珍しいと思う。1ヶ月前に、3人でスペインに行くという企画が進みつつあったことなど今となっては遠い過去の話である。

 中学から大学まで同じ3人が集まって旅行をしようかという話になったのは夏も盛りを過ぎた頃であった。R君とT君と僕。高校時代に無二の親友というわけでもなかったが、運命のいたずらで今もなお腐乱しきった腐れ縁に恵まれていた。その間に、火のないところから煙が立つようにして発生した「旅行でもするか」という話だった。この秋に中国旅行に出かけるT君の意向を汲んで中国以外の方向で検討していたが、1ヶ月あまりの間にT君が離脱したために中国を避ける理由がなくなった。古代中国に並々ならぬ関心をもつ2人な上に来年貯水が始まる三峡を見ずにおけるかという気持ちは一致を見たのでプランニングはごくスムーズに進んだ。

 入国は香港がよかろうということになった。日本からの便数が多い上にその後の移動にも便利だ。香港から広州に移動して空路で成都へ。重慶から三峡下りをして武漢、そして桂林を経て広州に戻るというプランだ。これで往復航空券の限度いっぱいの10泊11日。 だが、このプランをちょっと前に中国旅行をした知人に尋ねると「無謀」とのこと。そのアドバイスを受けて、桂林は「可能ならば」ということに切り替えた。

 とにかく計画が苦手な僕と計画しなきゃ気がすまないR君の間の壁は高く、互いに相手の行動が不愉快だったようだ。でも決裂するというほどではなく、何とか旅行に行く運びとなった。HIS横浜支店で往復航空券と中国ビザを頼む。あとは特に事前に手配すべきものが見当たらなかったので出発日を待つだけとなった。