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01.シンガポール・マレーシア編(10月06日〜09日)


予算と物価

 時刻は深夜0時、成田発シンガポール行の飛行機から降り、すぐに空港の24時間営業レストランで粗末な麺を食べた。600円。1日の予算は3000円と設定してある。暗算でもすぐにわかる厳しい物価だ。夜が明けるのを待って、いや夜が明けるよりも前に始発の電車に乗って逃げるようにマレーシアに向かった。


国境 シンガポールからマレーシアへ

 シンガポールからマレーシアに向かう車線(写真手前)は閑散としているが反対側はバイクが大渋滞をなしている。朝7時、多くのマレー人が国境を越えてシンガポールへの通勤通学に励んでいる。極めて日常的に国境越えをしていた。

 僕はそれらとは打って変わって、国が変わるということの意味を肌で感じようと力みながら国境を越えた。これだけ越境が日常化したところであっても「何かあるはずだ、何かあるはずだ」と目を皿にして、さらにカメラを随所に向けて、一歩一歩をかみ締めながら歩く。すると国境警備中の警官が足早にやってきて「NO PHOTO」。

 これが国境ということなのか。注意してくれてありがとう。

 ちなみに国境は少しドブの臭いがした。


クアラルンプール(KL)

 名前が長たらしいこともあってかこの都市は「KL」と略して呼ばれることが多い。ロサンゼルスの「LA」ほどではないけれどもサンフランシスコの「SF」より若干流通しているという程度の頻度だ。何でもかんでも略したがる最近の日本語を嘆く僕にとっては馴染めない、いやそれ以上に馴染みたくない呼び名である。どうでもいいことではあるが。

 この都市のランドマークとして挙げられるツインタワーが中心部から4〜5km離れていることが一つの象徴的な事実なのだが、見所や要衝が無意味に点在しているのがクアラルンプールの最大の特徴のように感じた。何しろ、その4〜5kmの間にめぼしいものが何もないばかりかめぼしくないものすらあまりないのである。もっともそれは、東南アジアではあまり見ることのない地下鉄を発達させる契機にはなったようだが。

 ツインタワーがどのような曲折を経て建設されたかはまったく知るところではないが、計画者がこの立地を選んだわけは意図が極めて非実際的な部分に支配されているように思えてならない。たまたま広い敷地が空いていたから、近くに要人が住んでいるから、そういったレベルではなかろうか。

 他の建造物を見ても、都市計画という点でかくも非合理的なものは見たことがない。


インド人と中国人

 マレーシアが殊更他民族国家というわけではないと思うのだが、クアラルンプールはいわゆる人種のサラダボウルという感じの多民族社会である。都市中心地に近い区画にインディア・タウンとチャイナ・タウンが隣り合うようにして存在する。

 どちらもその区画内に入ると屋台が連なっている。売り物も要するに日用品が多く、例外を除けば大差はない。だが、店員がはっきりと異なる。見た目の違いではない。商売根性の違いだ。インド人は売り物に興味を持つ客が現れても何の行動にも出ず、対応が遅い。が、中国人は通りかかるだけでもまさに「喰らいついて」くる。

 どちらのほうが売れ行きがよいかは一目でわかる。だが、買う気のない観光客にとってどちらがいづらいかも一目でわかる。


ペナン

 沢木耕太郎の「深夜特急」を読んでいるとペナンは何かアジアの秘宝とでも言わんばかりの魅力溢れる町を想像してしまう。だが、21世紀を迎えたこの町は汚れた海と安宿街以外に何かを持ちあわせているようには見えなかった。

 一つ、わずかな救いが「ペナンヒル」という丘から眺める景色である。英国支配時代に造られたケーブルカーで丘に登ると海の汚さは見えず、街の汚さも見えず、それでいて大陸との文字通りの架け橋を眺めることが出来る。ちなみにこの丘、適度に人口密度も疎らなので他に行くところのない現地のカップル、人の目の届かぬところで好き勝手したい旅行者のカップル、その双方に人気があるようである。


マレー鉄道の魅力 

 ペナンは大陸から極めて近い上に橋もかかっているので陸続きも同然だが、今でもフェリーが市民の主要な交通機関として大きな位置を占めている。フェリーを降りると、そこは北はバンコク、南はシンガポールまで走るマレー鉄道のターミナル駅、バタワースである。

 鉄道はバスに比べて設備の維持費が高くつくため本数が少ない国では概して割高である。それでも、乗り物それ自体が国境を越えるということはあまりあるものではない。バスなら国境で乗り換えである。それだけでもう鉄道に決まり。

 車内には途中駅から地元客がどしどしと乗ってくる。学校帰りと思しき子供が多い。一日に何本も走っていないのに、この鉄道なしにその子らの日々はありえない。右に左にどこまでも田園風景を従えて国内を走る間は地元の大動脈という顔を見せる。

 国境に近づくと飛行機と同じようにイミグレーションカードが配られる。国境を目指す外国人をよそに地元の人々は一人、また一人と去っていく。国境駅に至る頃にはその表情をすっかり切り替えている。車内の公用語は気づけば英語である。


マレー料理

 マレーシアとインドネシアの代表的な料理の一つにナシゴレンがある。料理には疎い僕でもその名前を知っているわけだからかなり日本でも知られた料理なのだろう。ちょいと辛めの炒め飯である。辛いものは苦手なので迷ったが、水を用意して試してみた。

 辛さよりむしろ鶏肉の骨が混じっていることのほうが気になったが、なかなかうまいものである。まずい炒飯というのはなかなかないものだと思うがそれにしてもよかった。

 「ナシ」は米を意味し、「ゴレン」は「炒める」を意味する。今度はミーゴレンという料理を試した。似たようなものだろうと推察し何かよくわからずに注文したが、出てきたものは焼きそばだった。「ミー」は麺を意味するのだろう。「ミー」が「辛い」でなくてよかった。こうなるとナシゴレンが美味くてミーゴレンがうまくないというのはなかなか難しい。期待どおり。これもピリ辛。

 ペナンのインド人街でインド料理にも挑戦してみようと思い店に入った。英語の堪能な店員に「辛くない料理があるか?」と尋ねる。「そんなものあるか。すべて辛い」。一蹴された。


国境 マレーシアからタイへ

 駅のホームの横にイミグレーションがあり、列車から降りてそこでパスポート等のチェックを受けて出入国を済ませる。そしてここからの切符を買って再び列車に乗り込めばおしまいだ。同じ駅の構内だが厳密にはタイに属する切符売り場で切符を買う。だが、釣り銭はマレーシア硬貨とタイ硬貨が混在している。「なんだこの釣りは!」と抗議するも「等価だから気にするな」と返される。ここでマレーシアの金をもらっても何の役にも立たないのに。

 仕方なしに駅でプリングルスを買って不意に得たマレーシアの金を一掃した。そりゃ、ユーロは便利だわな。


マレーシアの雑記

・クアラルンプールのタクシーでぼったくりにあった。物価水準からいってせいぜい300円という距離なのに着くと「1800円」。確かにメーターにはそう出ている。抗議したが「これは特別なタクシーなんだ」。何が特別なのかと問い詰めても「とにかく払え」。メーターの動きに注意を払わなかった僕にも責任があったので授業料と思って端数を切り捨てたものの言われた額を払った。以降、タクシーのメーターにいつも目は釘付けである。

・ペナンのケーブルカーにイスラム系のカップルが乗っていた。何の気もなくそのうちの女性の隣に座ると、徐に男性が立ち上がり女性と席を入れ換えた。イスラムとはそういうものらしい。

・カラスがスズメみたいに貧弱だった。ちょっとエサをあげたくなるくらい気の毒だった。
 

 

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